現場の運用を変えない物流管理のデジタル化、北野病院に見るRFIDの活用法RFID物流管理システム

多くの病院は、医療物品の発注、運搬、在庫管理などに多くの人員や時間を取られ本来の業務が圧迫されがちだ。この課題を解決すべく、帝人と小西医療器は、クラウドを活用した医療機関向けのRFID物流管理システムを共同開発。北野病院で段階的な実運用を開始し、オンタイムの支出の見える化、工数削減などの成果を上げ始めている。

» 2019年12月16日 10時00分 公開
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病院経営の効率化・最適化に欠かせない、医療物品の支出の正確な把握

 現代の医療は、ITをはじめとするテクノロジーにより急速な進歩を遂げている。「人生100年時代」とも呼ばれるように人々の健康寿命が伸びているのも、医療の高度化が大きく貢献しているのは言うまでもない。

 だが、一方で立ち遅れていると言わざるを得ないのが病院の経営面だ。収入はレセプト(診療報酬明細書)システムなどでかなり正確に管理できているものの、支出についてはほとんど管理ができていないのが実態だ。なかでも総コストの25%以上を占める医療物品については、紙の台帳による管理を中心とした旧態依然としたアナログな手法で行われており、多くのムダが内在している。

 実態損益の要因別分析なくして病院経営の効率化・最適化はあり得ない。その一歩として必須となるのが、医療物品の支出の正確な把握になる。診療科別、病床別などの支出をデジタルで“見える化”することで、病院長以下一般職員までの意識改革を促し、医療サービスを継続的に提供していくための収益改善を図ることが可能となる。

北野病院の吉村長久氏 北野病院 総長・病院長の𠮷村長久氏

 こうした医療物品管理のデジタル化に向けたチャレンジを開始したのが、大阪府下で屈指の規模を誇る北野病院だ。同院が利用している医療物品の品目は約32万点に及び、1日当たり1500〜2500点を消費している。この膨大な量の医療物品の院内ロジスティクスをRFIDの仕組みによって捕捉し、支出をオンタイムに近い形で管理できるようにすることを目指すという。

 北野病院 総長・病院長の𠮷村長久氏は「以前からRFIDに興味を持っていましたが、物品を捕捉するのに専用キャビネットを使う必要があるなど実用性に疑問を感じていました。そうした中、ある医療関係の総会で帝人のRFID管理システム『レコピック』に関する講演や事例を聞き、『これなら使える』と、その場で導入の意思を固めました」と語る。

あえて電波を“閉じ込めた”状態で近接した物品のICタグから情報を読み取る

 𠮷村氏が注目した帝人のレコピックとは、いかなるシステムなのか。概要を説明すると、ICタグを貼付した管理対象物の入出庫やロケーション情報、使用実績を正確かつリアルタイムに読み取るRFIDシステムだ。2014年にオンプレミス版がリリースされ、公共図書館や大学図書館における蔵書・貸出管理、工場における物流倉庫内の在庫管理、流通・小売業における商品管理、病院における医療機器の管理などの用途で使われ、導入実績は約50社に広がっている。

 最大の特長は、RFIDを検知するアンテナ技術による電波制御の優位性にある。

帝人の阿磨由美子氏 帝人 スマートセンシング事業推進班 第2ソリューションチーム 医療分野リーダーの阿磨由美子氏

 帝人 スマートセンシング事業推進班 第2ソリューションチーム 医療分野リーダーの阿磨由美子氏は、「東京大学発のベンチャー企業であるセルクロスの通信技術と帝人のシート製造技術を融合させて開発したもので、UHF帯の電波を5〜10cm以内の範囲に“閉じ込めた”状態でRFIDを運用できます。一般的なUHF帯を用いるRFIDでは、この電波の閉じ込めができないため、誤認識を避けるための専用キャビネットなどが必要になるわけですが、レコピックでは現在使用している棚などにアンテナシートを設置するだけで物品やカードに貼付されたICタグの情報を誤認識することなく読み取れます」と説明する。

 ちなみにこのアンテナシートのサイズは幅が10cmで、長さは30cmから最大180cmまで自在にカスタマイズできる。例えば、このアンテナシートを棚の各棚板に設置した場合、棚板上の物品の有無はもちろん、何段目の棚板にどの物品が置かれているのかといったロケーション情報を捕捉することが可能だ。

 これにより医療分野では、次のような利用シーンが想定されている。

  • ME(医用工学)機器管理:ME機器にICタグを貼付し、保管場所にアンテナシートを敷くことで、持出や保管といったステータス状況をリアルタイムに把握する
  • 手術材料管理:医療材料外装にICタグを取り付け、専用ボックスに投函するだけで、いつ、どこで、どの材料が使用されたのかをリアルタイムに把握する
  • 受診者管理:健診受診者ファイルにICタグを取り付けることで、受診者の待ち状況をリアルタイムに把握する
手術材料管理における「レコピック」の活用イメージ 手術材料管理における「レコピック」の活用イメージ

 さらに注目すべきが、2019年春のクラウド版レコピックのリリースだ。帝人 スマートセンシング事業推進班 システム担当の網野正仁氏は、「オンプレミス版のレコピックでは、システムを構成するハードウェアやソフトウェアに障害が発生した際に、お客さまから連絡を受けるまで対応することができません。そこでお客さまに納入したレコピックの稼働状況を私たち自身が常時把握し、何らかの異常を検知した場合に障害を起こす前に対処するプロアクティブなサービス体制を整えたいと考えました。そのために必要だったのがクラウド化です」と、その狙いを語る。

帝人の網野正仁氏 帝人 スマートセンシング事業推進班 システム担当の網野正仁氏

 そして、経済産業省が「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」に基づいて進めているさまざまな実証実験に、共に参画することで既に信頼関係があり、幅広い業種での採用実績も有するマイクロソフトの「Microsoft Azure」をクラウドの基盤に採用することになった。

 その先に見据えているのは、クラウドを通じたさらなる付加価値提供だ。「特に医療分野でニーズが高まっているのがデータ分析です。レコピックで管理している機器をどのように配置したらより効率的に運用できるのか、手術材料の滞留在庫をどうすれば削減できるのかといった課題に応えられる分析ソリューションを、将来的にMicrosoft Azureから提供していければと考えています」と阿磨氏は語る。

医療物品などに貼付されたICタグで物流業務の全てを一括管理

 もっとも、北野病院が目指している医療物品のリアルタイム管理と、レコピックが提供する標準機能の間にはまだまだギャップが大きい。そこで帝人は、シップヘルスケアグループの小西医療器とタッグを組み、レコピックを基盤にRFIDを活用する医療機関向けのSPD(院内物流管理)システムを共同開発することになった。

 SPDシステムとは、医療現場の消耗品管理を柔軟かつ円滑に行うための専用物流システムだ。小西医療器は、2000年代初頭から現在まで約50の病院施設でSPDシステムを導入・運用してきた実績があり、物品運搬や在庫管理に関する短期間かつ安定的なシステムの立ち上げや、精度の高い分析提案に強みを発揮している。

小西医療器の吉田記大氏 小西医療器 メディカルソリューション事業部 MSP情報戦略・企画チーム 課長の吉田記大氏

 小西医療器 メディカルソリューション事業部 MSP情報戦略・企画チーム 課長の吉田記大氏は、「帝人と小西医療器がそれぞれ持つ技術やノウハウを融合させることで、北野病院における院内ロジスティクスの効率化や安全性向上という課題に対して、最適な医療物流管理のソリューションを提供できると判断しました」と語る。

 両社が新たに開発した医療物流管理システムは、具体的にどんな特長を備えているのだろうか。

 これまでの医療分野における院内ロジスティクスは、その一部プロセスのみにICタグを活用するケースがほとんどだった。これに対して新システムは、医療物品などの管理対象物そのものにICタグを貼付することで、物品調達管理業務を担っているSPD事業者の外部倉庫への入出荷から病院への入荷、院内での使用に至るまで、物流業務全ての一括管理を可能とする。なお、北野病院への新システムの導入に際しては、小西医療器自身が医療物品の預託販売を含めたSPD事業者を務めている。

 また、病棟や手術室ではICタグが貼付された物品カードを、レコピックで培ったUHF帯電波の制御技術を元に開発した帝人の通過監視システム「レコファインダー」の読み取り機に投函するだけで、医療物品の使用実績が自動登録され、院外倉庫に情報が流れる仕組みとなっている。これにより「消費した医療物品が自動的に発注され、早ければ翌日に補充される」という調達のサイクルが確立され、人手による発注業務の大幅削減が期待できる。

ICタグが貼付された物品カード ICタグが貼付された物品カード
「レコファインダー」の読み取り機に投函するだけ この物品カードを「レコファインダー」の読み取り機に投函するだけで、医療物品の使用実績が自動登録され、院外倉庫に情報が流れる
小西医療器の植田亮太氏 小西医療器 メディカルソリューション事業部 MSP情報戦略・企画チーム 課長補佐の植田亮太氏

 同様に保険償還物品や単価1000円以上の医療物品にもICタグを貼付し、使用時に剥がして患者台紙に貼り替えて読み取り機に投函することで、消費がカウントされ、自動的に発注が行われる。加えて、どの患者に何の物品を使用したのかを把握できるため、医療物品のトレーサビリティー確保による安全性の向上や、患者ごとの原価管理が可能となる。

 小西医療器 メディカルソリューション事業部 MSP情報戦略・企画チーム 課長補佐の植田亮太氏は、「人の生命を預かる仕事なので、医療現場の方々は総じて保守的で、仕事のやり方が変わることに抵抗を示します。これに対して新たに開発した医療物流管理システムには、従来の作業手順から大きな変更はありません。ICタグの入った物品カードや患者台紙を投函することで自動的にデジタル化されますので、ストレスを感じることなく効率化を推し進めることができるとのご期待を頂いています」と語る。

院外倉庫と院内物流を合わせた管理工数と作業工数を5年以内に半減させる

 医療物流管理システムの最終的な完成は2020年の年明け早々を予定しているが、準備が整った部門については、2019年11月より順次運用を開始している。

北野病院で運用が始まった医療物流管理システムの構成 北野病院で運用が始まった医療物流管理システムの構成。クラウド基盤となっているのは「Microsoft Azure」だ

 「各現場では早くも工数削減の効果なども出始めており、『これまで部門内のスタッフ十数人が総出で、丸2日間をかけて行っていた物品の棚卸作業が、新システムに付属したタブレット画面を操作するだけで1〜2時間もあれば完了するようになった』という声も聞こえてきます。こうしたシステム導入後の現場運用への定着状況や効果などを段階的に確認することで、院外倉庫と院内物流を合わせた管理工数と作業工数を5年以内に半減させることが目標です。また、個人的な研究テーマとしても本システムで収集した多様なデータを管理会計に活用し、より詳細な損益把握・分析を実践することで、病院経営の改善策に役立てたいと考えています」と𠮷村氏は語る。

 ファーストユーザーである北野病院のこうした動きやニーズを受け止めつつ、小西医療器としても本システムのさらなる拡張を図っていく計画だ。

 「今回、院内ロジスティクスのプロセスを外部の物流とつなげることができたので、次のステップとしては、医療物品を管理しているデータベースサーバもMicrosoft Azureに移行したいと考えています。この狙いは、病院間の連携をサポートしていくことにあります。例えば特殊な手術を行う際に、先進的な医療機関はどんな材料を利用しているのかといった情報を、本システムおよびクラウドを通じて共有することで、社会全体の医療サービスの標準化に貢献したいという思いを持っています」と吉田氏は語る。

 一方で帝人は、このシステムを医療のみならず、より広範な業界に展開していく計画だ。阿磨氏は「システムのセキュリティや信頼性に関して最も厳しい要求が課せられる、病院での運用を通じて培った知見やノウハウを新たな武器に、工場向けの拡販も強化していきたいと考えています」と意気込んでいる。

 医療物流管理システムにおけるレコピックの活用事例が、製造業をはじめとするさまざまな現場でどのような形で展開されていくのか、今後の動向が楽しみだ。

左から、帝人の阿磨氏、北野病院の吉村氏、帝人の網野氏 左から、帝人の阿磨氏、北野病院の𠮷村氏、帝人の網野氏。医療物流管理システムのさらなる進化への意気込みは強い

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